2009年3月、群馬にて酪農コンサルタントである菊地実氏の「蹄管理の考え方・方向性を変える」というセミナーがありました。一番印象に残ったのは「知と智の酪農技術」についてです。知の酪農技術はただ知ってるだけの情報を元に実行する付け焼刃的な技術で、智の酪農技術はただ知っているだけでなくその情報を因果関係はもとより、深いところまで理解したうえで実行する技術です。今回のセミナーで菊地氏は、農場の問題を川の流れに例え、川下を知、川上を智としていました。なにか農場で問題が起きた時に、川下で知の情報だけでなんとかしようと思ってもほとんど変わらない、川上で智の情報を元に解決策を練らなければ大きくは変わらないということです。では、川上の智とはなんなのでしょうか?

川上の智とは今回のセミナーでは、「牛舎を清潔にする」、「蹄の休息(カウコンフォート)」、「乾物摂取量」、「定期的削蹄と定期的蹄浴のシステム化」ということでした。

牛舎を清潔にする

ひとつめの「牛舎を清潔にする」には、換気を良くする・除糞はマメにする・過密にしない・堆肥処理などについてでした。牛舎が清潔でないと、肢間皮膚炎・PDD・フレグモーネになる確率があがり、跛行します。換気が悪いと、餌を食べたくなくなり乾物摂取量が減ります。通路に糞尿が多いと、歩きたくないので採食行動が減ります。また、滑りやすくなるため、物理的な蹄損傷を受けやすくなり跛行します。そして乳房炎や他の病気にもなりやすくなります。牛舎の清潔を保つことは、乾物摂取量や跛行防止につながっているのです。

蹄に休息を与える

ふたつめの「蹄に休息を与える」ですが、乳量が多い牛ほど横臥の時間は長いそうで、50キロの乳量が出ている牛では14時間、30キロの牛では8時間ほど横臥するそうです。長い時間横臥できるベッド構造でなければ、蹄の休息は充分にとれないということになります。今推奨されているサイズを参考に、牧場の牛の大きさに合ったスペースを確保し、牛が寝起きしやすい柔らかい環境を作るべきだと感じました。長い時間横臥できないと、立ち過ぎによる蹄への負担が大きくなり跛行の原因になります。また、立ちっぱなしは疲れるので、次に立つのも嫌になります。それに反芻は横臥している時のほうが効率が良いので、立っている時間が長いと採食回数や時間が少なくなり、乾物減になります。横臥時間と採食時間が適切にとれれば、乾物摂取量は上がり牛は健康になると思います。

乾物摂取量を上げる

みっつめの「乾物摂取量を上げる」には、水の摂取量でそれは大きく変わるということでした。牛群頭数に合った水槽の大きさ・数・設置場所によって摂取量は変わってきます。そのほかに餌寄せの回数・タイミングや寄せ方も大切です。飼槽の高さはストールの高さから45cm上げると採食しやすくなり、前肢への負担も減るそうです。それにTMRのミキシングによる切断長や水分量、餌の質も大きく関わってきます。乾物摂取量が減少すると牛は健康ではなくなるでしょう。蹄病だけに限らず、すべての病気の原因になりえます。もちろん、乳量や繁殖寿命にも影響が出ることでしょう。

定期的削蹄と定期的蹄浴のシステム化

よっつめの「定期的削蹄と定期的蹄浴のシステム化」については、(牧場によって蹄の状態は異なるが)3か月から5か月の頻度で削蹄をし、蹄浴は1週間から2週間に1度実行するのが好ましいとのことでした。大切なのは、それを牧場のシステムとして組み込むことだそうです。システム化というものは「必ずやる」ということです。今週は忙しいから・・・とかではなく、担当を決め、決めた日に必ずおこなわなければシステムになりません。そのときは仕事の量が増えるかもしれませんが、蹄病予防をすればのちのち牛群管理は楽になり、結果的に仕事量も少なくなるのではないでしょうか。

考察

今、私が「上記すべてできるか?」と聞かれたら、牧場長として勤めていたときのことを思い出し「できない」と答えてしまうかもしれません。すべてのことを一気に改善しようと思うと、重い腰はあがりません。この中から自分の農場に一番必要で簡単に始められることから始めてみるとよいと思います。長期にわたり計画を練って実行するのでもよいでしょう。とにかく川上の問題を解決していけば、蹄の問題や乳房炎やその他の問題もよくなっていくと思います。

以上の内容はセミナー資料ではなく、すべて自分のメモ書きと記憶をたどったものなので、菊地氏が話したことをすべて正確には伝えられてない部分もあるかとは思います。私が菊地氏のセミナーを聞いて、感じとったものとしてお読みくださると幸いです。

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